危険物を保管する倉庫とは?倉庫・危険物の種類と危険物を保管する上での注意点を解説

危険物とは、消防法で定義されている可燃性や毒性のある物質を指します。これらは厳重な管理が求められ、危険物倉庫として許可された貯蔵庫での保管が必要です。

また、危険物は扱いを間違えると火災や爆発事故につながる物質なので、保管方法や施設の条件が消防法で細かく定められています。

この記事では、危険物倉庫の基準と危険物を保管する際の注意点、危険物の種類や性質について詳しく紹介します。

危険物倉庫とは

危険物倉庫とは、火災や爆発事故を起こす危険性を持つ危険物を取り扱う倉庫です。この危険物倉庫は、用途に合わせそれぞれ以下の3つに分けられます。

  • 危険物製造所
  • 危険物貯蔵所
  • 危険物取扱所

上記3つの危険物倉庫について詳しく解説します。

危険物製造所

危険物製造所とは、危険物を製造する目的で建てられた施設です。例えば、建設塗料や薬剤を用いたスプレー缶の生産は危険物の製造に該当するため、生産工場は危険物製造所となります。

危険物製造所は、火災や爆発の危険性が高いため、施設内外の構造には消防法の基準が適用されています。具体的には、屋根・壁・床・はりには不燃材料を使用し、外壁などの延焼リスクがある部分には、鉄筋コンクリートを使用した耐火構造にするなどの基準があります。

また、取り扱っている危険物の量によっては、施設外には避雷針の設置や、危険物製造所であることの標識の設置、扱う危険物の性質を示す掲示板の設置などの義務も発生します。

自社で扱っている危険物には、どのような条件がかかるのかを把握しておきましょう。

危険物貯蔵所

危険物貯蔵所とは、危険物を貯蔵する目的で建設された施設、またはタンクに危険物を貯蔵する施設のことです。

建設物だけでなく、普段街中で見かけるタンクローリーも、危険物貯蔵所の一種である「移動タンク貯蔵庫」に分類されます。危険物貯蔵所は、貯蔵する物質に合わせた貯蔵方式によって、以下の8種類に細分化されます。

  • 屋内貯蔵所
  • 屋外貯蔵所
  • 屋内タンク貯蔵所
  • 屋外タンク貯蔵所
  • 地下タンク貯蔵所
  • 簡易タンク貯蔵所
  • 移動タンク貯蔵庫

万が一火災や爆発事故が起こった場合を想定し、被害の拡大を防ぐという観点から、1つの貯蔵庫に1種類のみの危険物を保管するのが特徴です。

貯蔵所では、危険物を容器に密封して収納し、容器以外に収納される物品であれば、タンク貯蔵という形をとります。貯蔵形式によって設備条件も変わってくるため、自社の貯蔵庫に合った条件を確認しましょう。設備条件は、消防庁のホームページからPDF形式で配布されています

危険物取扱所

危険物取扱所とは、危険物の製造・貯蔵以外を目的とした危険物を取り扱う建物です。ガソリンスタンドや塗料販売店、ボイラー室などが該当します。

危険物取扱所は、営業形態によって以下の4種類に細分化されます。

  • 給油取扱所:ガソリンスタンド
  • 販売取扱所:塗料やエンジンオイルなどの危険物を販売する店舗
  • 移送取扱所:パイプラインを使って危険物を運搬する施設
  • 一般取扱所:ボイラー室や倉庫など、危険物を貯蔵・取り扱う建物

危険物倉庫の基準

危険物倉庫には、消防法により位置・規模・構造の3つに厳しい基準が設けられています。ここからは、危険物倉庫に設けられた3つの基準について詳しく解説します。

倉庫の位置

危険物を保管する倉庫は、隣接する設備への延焼や損傷を防ぐために、保安距離と保安空地を確保する必要があります。

保安距離とは、隣接する施設から一定の距離を保つことであり、保安空地は倉庫の周囲に一定の空間を確保することを指します。

保安距離は、保安対象物によって距離が定められています。例えば、敷地外の民家であれば10m以上、学校や病院であれば30m以上、重要文化財であれば50m以上が定められています。

一方で、保安空地は、保管する危険物の量(指定数量)の倍数によってそれぞれ設定されます。例えば、指定数量の倍数が5を超え、10以下である場合は、空地の幅が1m以上と定められています。

保安空地は、火災発生時に消火活動の妨げにならないように、何も設置してはいけない決まりになっています。業務に使用する資材や自転車などを置くことも禁止されているため、十分注意が必要です。

倉庫の規模

危険物倉庫の規模は、高さ6m未満の平屋で、床面積が1,000平方メートル以下と定められています。ただし、第2類と第4類に定められている危険物を保管する場合は、高さ20m未満までと、保管物によって変わるのが特徴です。

規模は、保安距離や保安空地も考慮する必要があります。新しく倉庫を建設する場合は、これらを含めた規模での設計が要求されるため、注意が必要です。

倉庫の構造

危険物倉庫の構造は、火災が起こった際に燃え広がらない不燃材料を使用する必要があります。また、保管する危険物が液体である場合、危険物が床に浸透しないための素材を用いるほか、漏れ出た場合を想定し、傾斜をつけた貯留設備を設けなければいけません。

また、窓や出入口には防災設備を設置する必要があり、延焼のおそれがある外壁に出入口を設ける際には、随時開けられる自動閉鎖の防火設備を設ける必要があります。

危険物倉庫を通常の倉庫で保管するには

危険物の量が少ない場合は、通常倉庫での保管も可能になる場合があります。例えば、各家庭のファンヒーターに使用する灯油や、工場で使用する機材のガスなどです。

危険物を取り扱う場合は、「指定量数」を知っておく必要があります。指定量数とは、消防法の適用を受ける基準となる数量です。指定量数の分類と定義を、以下に紹介します。

 

危険物の種類  水溶性/非水溶性  物品の例  物品の例 
特殊引火物 ジエチルエーテル、二硫化水素 50L
第一石油類 非水溶性

水溶性

ガソリン

ベンゼン

200L

400L

アルコール類 メタノール

エタノール

400L
第二石油類 非水溶性

水溶性

 灯油、軽油

酢酸、アクリル酸

1000L

2000L

第三石油類 非水溶性

水溶性

重油

グリセリン

2000L

4000L

第四石油類 ギヤー油

シリンダー油

6000L
動植物油類 アマニ油 10000L

危険物の定義

危険物倉庫で扱う危険物とはどのようなものがあるのでしょうか。ここからは危険物のカテゴリー6つと、物質の特性について詳しく解説します。

第1類:酸化性固体

酸化性固体とは、それ自体は燃えないものの、他の物質を酸化させる性質を持つ固体です。可燃物と混合すると、熱や衝撃、摩擦によって発火・爆発する危険性があります。また、酸化されやすい物質を近くに置かないようにし、密閉して冷暗所に保管しましょう。

粉末状のものが多く、白やオレンジ、紫色などの色があります。人体に有害な物質もあるので、触ったり吸入したりしないようにしましょう。

万が一燃え広がった場合は、大量の注水による消火が効果的です。ただし、アルカリ金属の過酸化物である場合は水と反応するため、水ではなく粉末消火剤や砂を用いて窒息消火をする必要があります。

主な酸化性固体の例としては、塩素酸塩類、過塩素酸塩類、無機過酸化物、亜塩素酸塩類、臭素酸塩類、硝酸塩類などが挙げられます。

第2類:可燃性固体

可燃性固体とは、火によって着火しやすい固体です。40度未満の低温でも引火する可能性があり、酸化性物質と混合すると着火・爆発するリスクがあります。また、酸化剤との接触を避け、防湿に注意し冷暗所に保管しましょう。

一度火がつくと一気に燃焼し、消火が困難です。また、燃焼すると有毒ガスを発生させるものも存在します。

消火方法は燃焼する物質によって異なります。水と反応する固体である場合は砂を用いた窒息消火を行い、引火性の固体である場合は粉末消火剤や泡、二酸化炭素を用いた窒息消火での対処が必要です。

そのほか、赤りんや硫黄である場合は水や強化液、泡といった水系による冷却消火や砂での窒息消火が求められます。

主な可燃性固体の例としては、酸化りん、赤りん、硫黄、鉄粉、金属粉、マグネシウムなどが挙げられます。

第3類:自然発火性物質および禁水性物質

自然発火性物質および禁水性物質は、空気にさらされる、または水と接触すると着火し、可燃性ガスを発生させます。容器を密封し、冷暗所に保管しましょう。

消火方法は、砂による窒息消火が効果的です。禁水性であれば粉末消火剤、自然発火のものであれば水による冷却消火も有効です。

カリウム、ナトリウム、 アルキルアルミニウム、アルキルリチウム、黄りんなどが具体例として挙げられます。

第4類:引火性液体

引火性液体とは、引火点が40℃以下で、空気と混合して引火する性質を持つ液体です。蒸気は、空気と混合して引火や爆発の危険性があります。

引火性液体の保管には、以下の点に注意しましょう。

  • 容器を密封して、冷暗所に保管する
  • 換気を十分に行う
  • 静電気を発生させるものからは遠ざける

消火方法は、窒息消火が基本です。注水は逆効果となるため注意しましょう。ガソリン、灯油、軽油、グリセリン、ヤシ油、ナタネ油などが引火性液体として挙げられます。

第5類:自己反応性物質

自己反応性物質とは、加熱分解などによって発火や爆発の危険性がある固体または液体です。加熱や摩擦によって発火するほか、高温で分解する性質を持っており、酸素を含むため空気に触れなくても燃焼します。そのため、火気や加熱、衝撃や摩擦を避け、通風の良い冷暗所へ保管する必要があります。

消火方法としては、大量の水が効果的ですが、勢いよく燃焼するため消火は困難です。

過酸化ベンゾイル、硝酸メチル、硝酸エチル、ニトログリセリン、トリニトロトルエン、ジアゾジニトロフェノールなどが具体例として挙げられます。

第6類:酸化性液体

酸化性液体とは、燃えにくい液体ですが、他の物質を酸化させる性質を持ちます。水と激しく反応して発熱するほか、腐食性があるため、皮膚への付着を避けるなど、取り扱いには十分に注意が必要です。

具体的には、以下の点に注意しましょう。

  • 火気や日光の直射を避ける
  • 可燃物や有機物との接触を避ける
  • 貯蔵容器は耐酸性のものを使い、密封する
  • 発生するガスを吸入しないよう、マスクを着用する

消火方法は、大量の水をかけて冷却するのが効果的です。消火の際には、危険物が飛散しないように注意し、防護服を着用して皮膚を守りましょう。

過塩素酸、過酸化水素、硝酸などが例として挙げられます。

危険物倉庫を利用する上での注意点

危険物倉庫を利用する・運営する上では、さまざまな危険を予測し、法律や規則で定められているルールを把握しておく必要があります。適切な方法で保管することは、火災や爆発事故を防ぐための重要なポイントです。万が一危険物の扱いを間違えたり、ルールを破ってしまったりした場合は、重大な事故につながってしまいます。

ここでは、危険物倉庫を利用する・運営する上での注意点を4つ解説します。

資格を有している必要がある

危険物を扱う倉庫では、危険物の管理責任者を設定し、配置する必要があります。管理者は、国家資格である危険物取扱者を取得する必要があります。危険物取扱者は甲種・乙種・丙種の3段階に分けられ、扱う危険物の種類によって必要な資格も変わります。

管理責任者は、危険物を扱っている倉庫で危険を予測し、事故を未然に防ぐことが重要です。

火気厳禁

危険物倉庫では、蒸発する危険物や引火性の液体や固体を大量に保管しています。そのため、必要外で火気を使用することは火災や爆発事故につながるため厳禁です。

例えば、タバコに火をつける時でも、倉庫から遠く離れた場所で行うなど、徹底した火気管理が重要です。また、火が出る可能性がある道具も倉庫内には持ち込み厳禁です。

適切な管理方法

倉庫に保管・貯蔵する危険物の種類や量によって、火災爆発事故防止のために必ず設けなければいけない設備があります。主な防止設備は以下のとおりです。

  • 危険物取り扱いの標識・掲示板
  • 避雷設備
  • 温度センサー
  • 蒸気排出設備

危険物倉庫では危険物取扱の標識や内容を示した掲示板の設置が義務付けられています。ほかにも避雷によって危険物が反応し、火災を引き起こす可能性がある危険物を扱っている場合は、避雷針などの設備を設置することが求められます。

温度の上昇により危険物が反応してしまう可能性がある場合は、蒸気排出設備が必要になるため、扱う危険物の内容を把握しておきましょう。

保管期間・廃棄処分

危険物によっては、保管期間が定められている物もあります。長期保管することにより酸化や蒸留が起こり、安全に取り扱うことが困難になるものも存在するため、必ず扱う危険物の性質を理解しておきましょう。

例えば、液体石油ガスなどの可燃ガスは、長期保管することにより不純物が蓄積し、引火点が低下することで引火やガス爆発の危険性が高くなるため注意が必要です。

また、廃棄処分をする場合も必ず法律にのっとった方法で適切に処分するようにしましょう。危険物ごとに保管期間や処分方法を理解し、適切な管理を徹底するのが重要です。

まとめ

危険物を倉庫に保管する際には、必ず危険物の種類と性質を理解しておきましょう。危険物が反応した場合、火災や爆発事故のリスクが高まり、自分の倉庫だけでなく近隣設備にも危険が及ぶ可能性があります。危険物は法律や規定で定められている取り扱い方法で適切に管理する必要があります。危険物を扱う上でのルールをしっかり把握し、事故を未然に防ぐのが重要です。

危険物倉庫の運営に気をつけるべきことを把握し、安全かつ適切に危険物を扱いましょう。




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