建物の「耐用年数」には、国が定めた年数のほか、専門家による検査による客観的な基準が設けられています。しかし、倉庫は建築材料や使用目的、立地条件や使用環境により違いが大きく、必ずしも耐用年数どおりの期間を使用できるとは限りません。倉庫の耐用年数を伸ばすには適切なメンテナンスが不可欠です。この記事では倉庫の耐用年数を伸ばすために、メンテナンスの目安や修繕方法について解説します。
倉庫の耐用年数とは
倉庫を使用できる寿命期間を判断する目安に「耐用年数」があります。耐用年数とは規定基準がそれぞれ異なる「法定耐用年数」「物理耐用年数」「経済的耐用年数」の3種類です。
建築メーカーが独自基準で設定する「建物がこれから何年使えるか」を示す「耐久年数」とは異なる点に注意しましょう。
法定耐用年数
法定耐用年数とは、建物の材料や用途から国税庁が定めた耐用年数です。建築資産は時間の経過とともに価値が減っていくという考えがあり、資産価値が帳簿上から消滅するまでの期間を定めています。そのため建物の固定資産税や、減価償却費の計算に使用されます。
以下は国税庁が規定する建築材や構造ごとの法定耐用年数です。
建築材・構造 | 法定耐用年数 |
---|---|
木造 | 15年 |
レンガ造・石造・ブロック造 | 34年 |
木骨・モルタル造 | 14年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 38年 |
参考:国税庁
物理耐用年数
物理耐用年数とは、建物が劣化で壊れるまでの期間を工学的見地から判断した基準です。
一般的に物理耐用年数は、法定耐用年数よりも長めに設定されています。
また、台風や地震などの自然災害、海の近くでは塩害などの条件が加わるため、物理耐用年数は立地により大きく変わります。
建築方法 | 耐用年数 | 耐久力 |
---|---|---|
テント倉庫 | 6~8年 | 部材が劣化しやすい 耐久力は低い |
プレハブ倉庫 | 20年以上 | 外壁の耐久力が高い 屋根材の耐久度は低い |
システム建築 | 30年以上 | 耐久性の高い部材の使用に より、品質が安定している |
在来工法 | 30年以上 | メンテナンスによっては長 寿化が図れる |
経済的耐用年数
経済的耐用年数とは、建物を継続使用するためにかかるメンテナンスや修繕の費用が、改築費を上回るまでの年数です。つまり、対象の倉庫が老朽化し、メンテナンスや修繕を続けるよりも建て替えた方が安価な場合、経済的耐用年数は0と判断されます。
経済的耐用年数は大まかに以下の方法で算出します。
経済的残存耐用年数とは、建物の利用可能な期間があと何年くらい残っているのか鑑定した年数です。
倉庫のメンテナンスとは
倉庫の維持管理には定期的なメンテナンスが欠かせません。メンテナンスには規定された基準があり、倉庫の種類や使用されている部材により頻度が異なります。また、劣化箇所の早期発見のために目視による確認も重要です。
倉庫の種類によってメンテナンス頻度は違う
倉庫をメンテナンスする頻度は、倉庫の種類や建築方法によって大きく変わります。システム建築ならば耐久性が約30年ほどもある一方で、テント倉庫の寿命は6~8年です。
加えて使用状態や立地環境、使用される建材の種類によっても劣化の進み具合は異なります。しかし、定期的な点検やメンテナンスによる損傷の早期発見により、トラブルの防止や修繕費の抑制が可能です。
耐用年数を基準にした定期的なメンテナンス
倉庫に使用される部材は、使用箇所や素材により耐用年数が異なります。それぞれの耐用基準に応じた定期的なメンテナンスが重要です。
設置箇所 | 使用素材 | 耐用年数 |
---|---|---|
屋根材 | 和瓦、ガルバリウム鋼板屋根 | 30~40年 |
スレート屋根、セメント屋根瓦 | 30年 | |
トタン屋根 | 20~30年 | |
外壁塗装 | フッ素塗料 | 10〜20年 |
シリコン塗料 | 8~15年 | |
ウレタン塗料 | 6~10年 | |
屋上の防水加工 | アスファルト防水 | 12〜20年 |
シート防水 | 12〜15年 | |
FRP防水 | 10〜15年 | |
ウレタン防水 | 10〜13年 | |
鉄部 | 塗装面劣化による防錆効果の低下 | 3~5年 |
鉄部分はサビの発生前に塗装面が劣化し粉状になるチョーキング現象が現れます。この状態は部材が脆くなるので、約5年ごとに塗り替えると良いでしょう。
劣化具合に応じたメンテナンス
素材の耐用年数を目安としたメンテナンス実施以外にも、目視で行う倉庫の状況確認が重要です。外観や内部の設備に劣化箇所があった場合は、早急に補修やメンテナンスを行わないといけません。ひび割れやサビなど劣化箇所がないか定期的なチェックをしましょう。
倉庫の修繕とは
倉庫の耐用年数を伸ばすためには劣化箇所の修繕が不可欠です。倉庫の設備が劣化したままだと、本来の耐用年数よりも短い期間しか使用できず、運営に損失が出るかもしれません。また、荷物の安全な保管や倉庫内作業に支障が出るなどのリスクもあります。
外装の修繕
外装の修繕は建物の美観だけでなく、耐用年数の延長にも効果的です。屋根や外壁といった倉庫の外装は常に風雨や紫外線の影響にさらされており、ほかの部位よりも劣化しやすい箇所です。倉庫に雨漏りやヒビ割れが発生している場合は、劣化が進んでいるため早急に修繕しましょう。
また、昨今では夏場の平均気温が上昇しており、倉庫内での作業中に熱中症のリスクが懸念されています。冷房が効きにくい倉庫には外装に遮熱塗料を塗るといった改修が必要です。
屋根の修繕
屋根の修繕は、防水処理や再塗装、ふき替え工事、カバー工事などの種類があります。屋根材のサビや雨漏りの発生箇所を早期に発見し修繕すれば、倉庫の耐用年数は増えるでしょう。
外壁の修繕
外壁には風雨や紫外線の影響を防ぐため、塗装の剥離箇所やコーキングの脱落箇所の修繕を行います。外壁の劣化放置は、建物の耐用年数を縮める直接的な原因になります。
内装の修繕
倉庫の内装は、施設によって使用材料や構造が大きく異なるため、特性を把握することが大切です。修繕対象は建物の内壁や床面と各種の設備機器です。
床面の修繕
床面の劣化が激しい場合は、不安定な足場に従業員がつまずくリスクや、埃や粉塵が増えるおそれがあります。修繕方法として、床面の塗装は防塵対策になり、物品への異物混入の防止にも効果的です。
設備機器の修繕
電気や給排水の設備は常時使用するため、こまめな点検と修繕が必要です。また倉庫の用途によっては、熱や湿気などから内装材が汚れやすく、傷みやすくなる環境もあります。汚れの除去や部品の交換などは早めに対応しましょう。
構造部分の修繕
倉庫の構造部分の修繕は、柱や床、梁(はり)、階段、基礎部分などに行い、建物の耐震性や耐久性を確保することが目的です。構造部品の修繕は、建物の耐用年数の延長だけでなく、従業員の安全や命を守るためにも重要です。
構造部分の修繕
柱、床、梁、基礎のひび割れや、柱や梁のたわみが発生すると、建物の強度不足から建て替えが必要になる場合があります。また鉄骨など金属部分のサビが進行し、部品が脆くなっていることや、目視できない部分の劣化も想定し、専門家による定期的な診断も重要です。構造の劣化を早期に発見できれば、部材の補強や交換などの対応で済む可能性があります。
まとめ
耐用年数からおおよそのメンテナンス時期を判断できるので、これから倉庫を建てる方も知っておいて損はないでしょう。ただし耐用年数は目安でしかなく、倉庫は常に風雨と紫外線にさらされ続けるため、長く使うには外装のメンテナンスと修繕が必須です。
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