天井クレーンで起こる事故とは?クレーン事故の要因や注意点を解説

天井クレーンで起こる事故は、クレーン事故全体の85%が挟まりや落下、墜落によるものです。一般社団法人日本クレーン協会が発表した「クレーン及び移動式クレーンの労働災害発生状況(令和3年)」によると、天井クレーンで発生した労働災害による死傷者数は780人で、死亡者数は20人です。業種別では製造業が最も多く、次に建設業、運輸交通業の順となっています。

この記事では、現場の作業員向けに天井クレーンで起こる事故の紹介と事故の要因、注意点を詳しく解説します。

天井クレーンの事故の事例

厚生労働省の「労働災害事例」によると、天井クレーン事故の事例は89件の記録があります。この中から、死亡災害の多い現象である「挟まり」「落下」「墜落」の3つを紹介します。

荷の移動方向を誤り、つり荷と配電盤に挟まれる

作業員がホイスト式天井クレーンを操作していたところ、誤って逆の運転ボタンを操作しました。そのため、つり荷が自分の方に迫ってきて、壁側の配電盤に挟まれて死亡しました。

事故の原因

    • 無資格者にクレーンの操作を行わせたこと
    • 天井クレーンの操作をつり荷の近くでしていたこと
    • 安全衛生教育を実施していなかったこと

厚生労働省「労働災害事例」No.101263

ワイヤーロープが切断し、つり荷の下敷きになる

金属製品製造業で、つり荷が落下してケガをした事故が発生しています。作業員が建築用H鋼をクレーンで移動中に、ワイヤーロープが切れて落下してしまいました。近くにいた玉掛け作業者が、落下した建築用H鋼の下敷きになってケガをしました。

事故の原因

  • 作業開始前に点検をせず、損傷したワイヤーロープを使用したこと
  • 玉掛け作業者がつり荷の近くにいたこと
  • 安全衛生管理の指導を実施していなかったこと

厚生労働省「労働災害事例」No.101221

天井クレーンの点検中に墜落

鋳物業で、作業員がガーター上から墜落して死亡した事故が発生しました。作業員が天井クレーンの異変に気づき、自分の判断で天井クレーンのガーター上にのぼって点検を始めました。ガーターとは、クレーン本体部のことを指します。原因がわからず降りようとしたところ、あやまってガーター上から墜落して死亡しました。

事故の原因

  • 墜落防止のための措置を行っていなかったこと
  • 機械の修理に関するルールを定めていなかったこと

厚生労働省「労働災害事例」No.100431

天井クレーンによる事故の要因

事故の要因を知ることは、事故を防ぐうえで重要です。要因を知ることで再度発生することのないように対策が打てるでしょう。ここでは、人間的要因と管理的要因、設備的要因の3つを紹介します。

人間的要因(ヒューマンエラー)

作業員の思い込みや無意識行動、危険感覚の欠如などによる事故のことです。たとえば、思い込みでクレーンを逆方向に動かした、高所作業で安全帯を着用しなかった、などが考えられます。

人間的要因による事故は、作業員一人ひとりの安全意識によって防げます。しかし、安全意識は簡単に身につくものではありません。仕事の経験を積みながら、少しずつ安全意識を高めていきましょう。

管理的要因

管理的要因とは、教育訓練不足や指導不足、マニュアルの不備などによる事故のことです。

たとえば、安全衛生教育が十分に行われていなかった、クレーンの操作や作業の手順が明確に定められていなかった、などが考えられます。

管理的要因による事故は、会社や組織全体の問題です。まずは、現在の働きにくさを直属の上司に相談しましょう。改善が見られない場合は、転職も検討しましょう。

設備的要因

設備的要因とは、整備不良や故障、老朽化などによる事故のことです。

たとえば、損傷したワイヤーロープの使用、ブレーキの摩耗、巻過防止装置の故障によるつり荷の落下などが考えられます。設備的要因による事故は、作業開始前の点検や定期点検で防げます。

天井クレーンの点検は、クレーン等安全規則第34〜39条で定められています。点検をしていない場合は法律違反となるため、安全に配慮している職場とはいえません。

天井クレーンを扱ううえでの注意点

事故の要因が判明したら、次は具体的な対策の手段です。事故が発生した最悪の事態を想定して行動することで、事故の予防につながります。ここでは、天井クレーンを扱ううえでの注意点を3つ紹介します。

つり荷の下には立ち入らない

クレーン作業において、最も重要な安全対策は、つり荷の下には絶対に立ち入らないことです。つり荷の下に立ち入ると、ワイヤーロープが切れてつり荷が落下した際に、下敷きになる危険があります。

また、つり荷の落下による事故は、クレーン事故全体の27%を占める、決して珍しい事故ではありません。したがって、つり荷の下にはむやみに立ち入らないよう、注意が必要です。

周りの作業者への合図や声かけを行う

クレーン作業は、複数の作業者が関わる作業です。作業に集中している作業員は、周囲の状況に注意が行き届いていないこともあります。そのため、周りの作業者への合図や声かけを行うことで、お互いに注意を払い危険を回避できるでしょう。

また、単独作業は死亡率も高く、発見が遅れる傾向にあります。できるだけ危険が伴う作業では、単独行動を避け、合図や声かけを行いながら作業を行うことが大切です。

異変を感じたら運転を中止する

クレーンは、大型の機械であり、摩耗や老朽化による故障や異常が発生する可能性があります。機器から異音がする、煙が出るなど、異変を感じたら、直ちに運転を中止しましょう。

異常部分を見つけたら、潤滑油の補給や焦げ付き発生箇所の交換などで、異常を解消できるかもしれません。異変を放置すると、二次災害を招く恐れがあります。

もし事故が起こった場合は

いくら作業員が安全意識を持っていても、予期せぬ事故が起きることもあります。ヒューマンエラーをゼロにすることは難しくても、的確に対処できれば被害を最小限に抑えられます。ここでは、現場の作業員向けに事故が起こった際の対応方法を紹介します。

現場責任者に報告する

事故が発生したら、まず現場責任者に報告しましょう。混乱している状況でも、自分が見たままを報告することが大切です。怪我人がいる場合は、救急車を呼びましょう。早急に報告することで、被災者の命を救うことができます。

現場責任者の指示に従う

現場責任者の指示に従って、余計なことはしないようにしましょう。被災者を救助しようとして、二次災害に巻き込まれる危険があります。事故の被害を最小限に抑えるために、現場責任者の指示に従いましょう。

事故現場はそのままにする

重大な事故の場合は、警察による現場検証が行われます。自己判断で片付けや整理整頓をしないで、事故が起こったままの状態を保ちましょう。また、災害の事実関係の確認が行われます。誰が、いつ、どこで、なぜ災害に遭ったかを詳しくメモしておくと良いでしょう。

まとめ

この記事では、天井クレーンで起こる事故や扱ううえでの注意点を解説しました。クレーン事故全体の85%が挟まりや落下、墜落によるものです。作業員ひとりひとりが安全意識を持つことで、事故の発生を予防できるでしょう。

また、業務の経験を積んでいく中で、少しずつ危険性やリスクがあることを心に留めておきながら業務を進めることが、安全への第一歩と言えるでしょう。




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