天井クレーン付き倉庫でよくある事故とは?実際にあった災害事例や対策する方法を解説

天井クレーンの事故を防ぐためには、一人ひとりの高い安全意識が不可欠です。この記事では、天井クレーンでよくある事故や実際に起きたクレーン災害、事故を防ぐための方法について解説します。

天井クレーンでよくある事故

ここでは、天井クレーンでよくある事故を紹介します。

挟まれによる災害

厚生労働省「令和2年におけるクレーン等の災害発生状況」によると、クレーン事故による死亡災害のうち、挟まれによるものは全体の28.6%です。令和2年にクレーン事故で亡くなった9人のうち、2人が挟まれによる災害で亡くなっています。

挟まれによる災害とは、移動中のつり荷と壁の間に作業員が挟まれたり、つり荷が転倒して作業員が挟まれたりする事故です。

これらの災害は、クレーン操作の作業員と玉掛け作業員とのコミュニケーション不足や、業務の慣れによる作業動作の不安全、明確な安全作業の指示が行われなかったことなどが原因です。

落下による災害

落下によるクレーン災害は全体の26.2%になります。厚生労働省の調査で、令和2年に9人が天井クレーンによる事故で亡くなりましたが、そのうちの6人が落下によるものです。

この災害には、玉掛けワイヤーロープの切断やクレーンのフックの破損、クレーン本体部や巻上げ装置の落下などがあります。

災害は、つり荷の近くや下に作業者がいたり、玉掛け技能講習を修了していない人が玉掛けを行ったり、作業前点検や玉掛けを確認せずにクレーンを操作したことが原因です。

墜落による災害

死亡事故につながったクレーンによる墜落事故は、全体の21.4%です。

墜落による災害とは、クレーンのガーダ上を点検中に墜落したり、つり荷に押されて作業場から墜落したり、天井走行クレーンに押されて墜落する事故です。

これらの災害は、墜落防止措置が行われていなかったり、安全管理体制が不十分だったり、クレーンの知識が十分でない人が高所で点検作業を行ったことが原因です。

天井クレーンの災害事例

厚生労働省の「労働災害事例」によると、2024年7月1日時点で天井クレーンの災害事例は89件の記録があります。この中から、クレーンによる労働災害でよくある「挟まり」「落下」「墜落」の3つを紹介します。

荷の移動方向を誤り、つり荷と配電盤に挟まれる

金属製品製造業で発生した無意識行動による挟まり事故です。天井クレーンを誤って逆に操作したことでつり荷が自分に迫ってきて、つり荷と壁側の配電盤に挟まれて死亡しました。

無資格者にクレーンの操作をさせたこと、天井クレーンの操作をつり荷の近くで行ったことが原因とのことです。また、被災した作業員は安全衛生教育を実施していませんでした。

今後は、クレーンの操作は有資格者が行い、安全衛生教育の実施を徹底することで同種災害を防ぐ対策を講じています。

参考:厚生労働省「労働災害事例」No.101263「床上操作式天井クレーンを用いて鉄板を移動中、鉄板が揺れて配電盤との間にはさまれる」

ワイヤーロープが切断し、つり荷の下敷きになる

金属製品製造業で発生した憶測判断による落下事故です。建築用H鋼をクレーンで移動中にワイヤーロープが切れて落下し、近くにいた玉掛け作業員が下敷きになってケガをしました。

作業開始前に点検をせず、損傷したワイヤーロープを使用したことが主な原因です。運悪く玉掛け作業員がつり荷の近くにいたことで人身事故につながりました。玉掛け作業員は玉掛けの技能講習を実施しておらず、見よう見まねで玉掛けをしていたとのことです。

今後は、損傷した玉掛け用ワイヤロープを使用しない、玉掛け技能講習の修了者が玉掛けを行うこと、つり荷から十分離れることで同種災害を防ぐ対策をしています。

参考:厚生労働省「労働災害事例」No.101221「H鋼をつり上げ中、玉掛け用ワイヤロープが切断し、荷の下敷きになる」

天井クレーンの点検中に墜落

鋳物業で発生した危険感覚の欠如による事故です。天井クレーンの異変に気づき、自分の判断で天井クレーンのガーター上にのぼって点検を始めましたが原因がわからず、降りようとしたらあやまってガーター上から墜落して死亡しました。

高所作業にも関わらず墜落防止措置を行っていなかったことや、機械の修理に関するルールを定めていなかったことが原因とのことです。また、被災した作業員の機械に関する知識は十分ではなく、クレーンの知識がない中で点検作業を行っていました。

今後は、高所での作業時は墜落防止措置を行い、機械などの点検・修理は専門家への依頼を徹底することで同種災害の防止を講じています。また、基本的な安全教育を実施し、独断で危険な作業を行わないように徹底しています。

参考:厚生労働省「労働災害事例」No.100431「天井クレーンの点検中、墜落」

天井クレーンの事故が発生する要因

事故の要因を知ることは、事故を防ぐうえで重要です。なぜなら、要因を知ることで事故が発生しないように対策が打てるからです。それでは、どのような要因が隠されているのでしょうか。以下で天井クレーン事故が発生する要因について詳しく解説します。

人間的要因(ヒューマンエラー)

作業員の思い込みや無意識行動、危険感覚の欠如などによる事故です。ヒューマンエラーには、意図して起こるものと意図せずに起こるものがあります。

手抜きや確認不足、高所作業で安全帯を着用しないなどは意図して起こるヒューマンエラーです。これらは作業に慣れていることが背景にあります。一方、意図せずに起こるヒューマンエラーは、見落としややり忘れなどのうっかりミスです。焦りや疲労が原因で注意力が低下し、発生しやすくなります。

事故を防ぐには、作業員一人ひとりの高い安全意識が不可欠です。業務開始前の危険予知活動(KY)や、相互の注意喚起が重要です。見落としややり忘れの予防には、チェックリストや手順書の作成が有効です。

管理的要因

管理的要因とは、教育訓練不足や指導不足、マニュアルの不備などによる事故です。

たとえば、安全衛生教育が十分でない、上司からの指導が不十分、クレーンの操作手順が明確でない、などが挙げられます。管理的要因による事故は、会社や組織全体の問題です。まずは直属の上司に相談しましょう。

設備的要因

設備的要因とは、整備不良や故障、老朽化などによる事故です。

たとえば、損傷したワイヤーロープの使用、ブレーキの摩耗、巻過防止装置の故障によるつり荷の落下などがあります。設備的要因による事故は、作業開始前の点検や定期点検で防ぐことが可能です。

点検を怠ると法律違反となるため、安全に配慮している職場とは言えません。

天井クレーン事故を防ぐための対策方法

事故の要因が判明したら、次は具体的な対策の手段です。事故が発生した最悪の事態を想定して行動することで、事故の予防につながります。

ここでは、天井クレーンを扱ううえでの注意点を3つ紹介します。

つり荷の下には立ち入らない

クレーン作業において、最も重要な安全対策は、つり荷の下には絶対に立ち入らないことです。つり荷の下に立ち入ると、ワイヤーロープが切れてつり荷が落下した際に、下敷きになる危険があります。

つり荷の落下による事故は、クレーン事故全体の26%を占める事故です。つり荷の下には立ち入らず、つり荷から離れて作業しましょう。

周りの作業者への合図や声かけを行う

クレーン作業は、複数の作業者が関わる作業です。作業に集中している作業員は、周囲の状況に注意が行き届いていないこともあります。そのため、周りの作業者への合図や声かけを行うことでお互いに注意を払い、危険を回避することが重要です。

また、単独作業は死亡率も高く、発見が遅れる傾向にあります。できるだけ危険が伴う作業では、単独行動を避け、合図や声かけを行いながら作業を行うことが大切です。

異変を感じたら運転を中止する

クレーンは大型の機械であり、摩耗や老朽化による故障や異常が発生する可能性があります。機器から異音がする、煙が出るなど、異変を感じたら、直ちに運転を中止しましょう。

異常部分を見つけたら、潤滑油の補給や焦げ付き発生箇所の交換などで、異常を解消できるかもしれません。異変を放置すると、二次災害を招く恐れがあります。

まとめ

この記事では、天井クレーンでよくある事故や災害事例を解説しました。クレーン事故全体の約8割が挟まりや落下、墜落によるものです。作業員一人ひとりが高い安全意識を持ち、職場のルールを守ることで事故の発生を予防できます。

業務開始前の危険予知活動(KY)を通して当事者意識を育み、作業員がお互いに注意喚起をするほか、分からないことを気軽に聞ける職場環境が理想です。少しずつ危険性やリスクがあることを心に留めておきながら業務を進めるのが、安全への第一歩と言えるでしょう。




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