倉庫を建てる材料には制限がある?火災被害を防ぐための「内装制限」について解説

一般的に倉庫を建築する場合には、建築基準法に定められた安全基準を満たさなければいけません。家庭で使用される小型物置は別として、企業が使用するような大型倉庫では火災被害を防ぐために、内装制限が規定されています。この記事では、内装制限とはどのようなものか解説します。

倉庫を建築するには使用制限がある

企業が自社製品を保管する自家用倉庫や、他者の物品を保管する営業用倉庫は大量の物品資材を収納するため、これらの多くは大型建築物です。

倉庫を建てる際の安全基準は建築基準法で厳しく定められています。特に火災発生時の大きな被害を防ぐため、使用する建築資材の指定や、燃え広がりにくい構造で建てるよう規定があります。また、都市計画法の地域制限により、持ち主が自由な場所に建てられるとは限りません。

建築基準法での決まり

建築基準法
建築基準法では第2条で倉庫の取り扱いを特殊建築物と定めています。さらに第27条では「在館者の避難安全性の確保及び周囲への延焼防止」観点から対象となる倉庫の規模に応じた耐火建築物規定があります。

  • 耐火建築物:当該用途へ供する3階以上部分の床面積合計が200㎡以上のもの
  • 準耐火建築物:当該用途へ供する部分の床面積の合計が150㎡以上のもの

これらの規定は、火災発生時に内装建材から有害物質の発生を防ぎ、建物の倒壊や延焼を遅らせ、使用者の早急な安全避難が目的です。そのため倉庫建築に使用する内装材料や建築構造には厳格な制限があります。

建築基準法施行令
建築物の内装規制は、建築基準法施行令第128条の3の2、第128条の4、第129条及び第112条、第128条の3に定められています。この規定内に「倉庫」という言葉は含まれていませんが、特殊建築物全般に適用されるため、条件が合致する倉庫も対象です。

「倉庫」の場合は、高さ1.2m以上の壁と天井を作る際の内装制限が適用されます。この制限対象は壁と天井であり、床は含まれません。

これらの内装制限に違反した場合は、建築基準法98条の罰則規定により、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されます。

倉庫建築に関わる3つの制限

倉庫を建築する際には、法律規定から制限を受けます。大別すると「内装制限」「建築制限」「用途制限」の3つです。

内装制限
建築基準法・建築基準法施行令により、火災発生時に被害を最小限に抑えるため、建築資材には防火資材の使用が決められています。防火資材とは、耐火性能で分類された「不燃材料」「準不燃材料」「難燃材料」の3種類です。倉庫建築に使用されるのは、このうち「不燃材料」「準不燃材料」2つのみです。

内装制限は法律規定だけではなく、所轄消防署から検査を受ける場合もあります。これは内装のレイアウト状況から、通常の建築物よりも延焼しやすい構造になっている事例があるためで、法律基準よりも厳しい指示が入ることがあります。

建築制限
耐火建築物には建物サイズに応じて、一定面積ごとに防火区画を設置しなくてはいません。
炎を遮る防火機能を持つ非常口の設置も必要です。また、スプリンクラーや排煙設備の有無で内装制限が緩和される場合があり、建築制限と内装制限は相互に関わる規制です。

倉庫建築には消防法から、火災予防と消火活動がしやすいように建築制限を指示される場合があります。立地や構造の条件から警報装置・排煙設備・消火栓の設置などの指示もあります。

用途制限
都市計画法により、原則的に住居地域には営業用倉庫を建築できません。さらに営業用倉庫は国土交通省へ届出と登録が必要です。

倉庫の内装制限とは

倉庫の内装を作る際に、壁や天井には不燃材料・準不燃材料を使わなくてはいけません。それら建築資材の取り付け方にも防災目的から細かな制限があります。建築前には消防署へ地域の防災条例を確認し、内装制限に従って工事を行わなければなりません。

内装に使用する材料に制限がある

内装制限の規定では、倉庫の壁や天井を作る際には、不燃材料・準不燃材料の使用が必須です。これらの材料は前提として「防火材料」の分類要件をクリアしていなくてはいけません。

「防火材料」の分類要件「建築基準法施行令第108条の2」より

1. 燃焼しないものであること
2. 防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じないものであること
3. 避難上有害な煙又はガスを発生しないものであること

以上の3つを満たすことが「防火材料」の定義です。

防火材料が加熱され、条件を満たせなくなるまでの時間の違いで、3種類に分類されます。

不燃材料 加熱開始後20分以上要件を満たす
準不燃材料 加熱開始後10分以上要件を満たす
難燃材料 加熱開始後5分以上要件を満たす

倉庫建築に使用される「不燃材料」「準不燃材料」について何が該当するかは、国土交通省から具体的な指定があります。

不燃材料:建設省告示第1400号(国土交通省告示第1178号により改正)

 

材料 厚さ指定
コンクリート
繊維強化セメント

繊維混入ケイ酸カルシウム板

厚さ5mm以上
アルミニウム
ガラス
しっくい
せっこうボード 厚さ12㎜以上、ボード用原紙の厚さが0.6㎜以下
グラスウール版
れんが
陶磁器質タイル
ガラス繊維混入セメント版 厚さ3mm以上
鉄鋼
金属板
モルタル
ロックウール

国土交通大臣から認定を受けた不燃材料製品には「NMー〇〇〇〇(四桁数字)」の認定番号が発行されます。

準不燃材料:建設省告示第1402号

材料 厚さ指定
難燃合板 厚さ5.5㎜以上
せっこうボード 厚さ7㎜以上、ボード用原紙の厚さが0.5㎜以下

国土交通大臣から認定を受けた準不燃材料製品には「QMー〇〇〇〇(四桁数字)」の認定番号が発行されます。

木材の取付方法が決められている

木材は燃焼しやすいため、内装に使用する場合には、火災防止の条件を満たした取り付け方法が定められています。また、木材を取り付ける前提として、取り付ける壁や天井の内装を不燃材料もしくは準不燃材料で仕上げていなくてはいけません。

  • 木材表面に延焼を拡大させる溝がないことを確認する
  • 木材の厚さに合わせ下地を適切に取り付ける
木材の厚さ 取り付け方法
木材の厚さが10㎜未満 難燃材料の壁に直接取り付ける。
木材の厚さが10㎜以上 壁内部での火災延焼を防止するように配置された柱、間柱その他の垂直部材および梁、胴縁その他の横架材(それぞれ相互の間隔を1m以内に配置されたものに限る)に取り付ける。または難燃材料の壁に直接取り付ける。
木材の厚さが25㎜以上 以上の限りではない。

参考「福岡市消防局 第9 内装制限」より

以上のような内装制限に従った工事を行います。木材の取付方法については、自治体それぞれに独自の条例制限を決めている場合があるため、建築前に必ず確認しましょう。

木造倉庫にもメリットがある

燃焼しやすい木材は、火災を防ぐ目的から考えるとデメリットがあるため、取り付け方法に厳しい制限が設けられています。しかし、一方で木造倉庫には独自のメリットも存在します。

工期が早く、コストも安い
木造建築は鉄骨建築よりも建物重量が軽いため、基礎工事が小規模で済む点がメリットです。また一部の資材には一般住宅と同じ木材が使用でき、資材を調達しやすく建築コストが安く抑えられます。

空間内の快適性
木材建築の断熱性能は鉄筋コンクリート製の建物よりも優れ、冷暖房効果が高くなります。そのため、夏冬の温度差が大きい環境でも、内部での作業時に快適な室温維持が容易です。

技術向上により大空間の構築が可能
建築技術の向上で木造の大スパン構造が可能になり、柱のない大型木造建築が作られるようになりました。大スパン構造とは柱芯間距離が数十m~100m以上の幅を持つ建築技術であり、柱のない体育館や倉庫に利用されています。こうした木造の大型建築は建物重量が軽く柔軟性もあり、地震の揺れを大幅に軽減できるため、高い耐震性能も備えています。

2021年10月より「脱炭素社会の実現に資する等のために建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。これにより木造建築の推進が加速されるかもしれません。現在は不燃木材の研究開発が進んでおり、内装材に使用可能な「不燃材料」に認定された木材商品も2023年12月より販売される予定です。

ほかにも制限がある

倉庫を建てる際には内装制限以外にも建築制限・用途制限といった法律の規制を遵守しなくてはいけません。

建築制限
倉庫は耐火建築物として建てられるため、建物規模により構造制限を受けます。一定面積ごとに防火区画を設置し、非常口部分にも特定防火設備が必要です。

用途制限
倉庫を建てられる区域は都市計画法で決められています。住宅区域には原則的に倉庫を建てられません。

倉庫の建築制限とは

原則的に倉庫は耐火構造で建築しなくてはいけません。耐火性能は建物サイズで構造制限が決められています。

建築構造 建物サイズ 耐火性能
耐火建築物 3階以上の建物で床面積200㎡以上 火災時に1~3時間の耐火性能を持ち、建物の倒壊や延焼を防ぐ
準耐火建築物 床面積1,500㎡以上 耐火構造の条件を満たしていないが30分~1時間の耐火性能を持つ

防火区画設置
倉庫は一定面積ごとに防火区画を設置し、火災時の延焼を限定的な範囲に止めるための規定があります。

耐火性能 区画面積
耐火構造 準耐火構造
スプリンクラーなし 1,500㎡ごと  1,000㎡ごと
スプリンクラーあり 3,000㎡ごと  2,000㎡ごと

 

特定防火設備
耐火構造の倉庫では火災時に円滑な避難や消火活動を行うため、扉や窓の開口部を1時間以上の遮炎性能をもつ特定防火設備で作る必要があります。2,000年以前には「甲種防火戸」と呼称されていました。

建築基準法・告示1369号

イ骨組を鉄製とし、両面にそれぞれ厚さが0.5㎜以上の鉄板を張った防火戸
ロ  鉄製で鉄板の厚さが1.5㎜以上の防火戸又は防火ダンパー
ハ  鉄骨コンクリート製又は鉄筋コンクリート製で厚さが3.5cm以上の戸
ニ 土蔵造で厚さが十五センチメートル以上の防火戸

「構造方法等の認定に係る帳簿」平成12年4月1日より

国土交通省から大臣認定を受けた扉や窓の製品には「EAー〇〇〇〇(4桁数字)」の認定番号が発行されます。

倉庫の用途制限とは

都市計画法では用途別に土地を「住宅系」「商業系」「工業系」の3種類に大別しており、これをさらに13区分へ細分化します。倉庫を建築可能な用途地域も都市計画法で定められており、原則的に住宅地には建てられません。しかし、条件合致すれば建築可能な事例も存在します。

倉庫の用途地域制限

用途地域 営業用倉庫 自家用倉庫
第1種低層住居専用地域 不可 不可
第2種種低層住居専用地域 不可 不可
第1種中高層住居専用地域 不可 不可
第2種中高層住居専用地域 不可  2階以下かつ1,500㎡以下の場合は可能
第1種住居地域 不可 広さ3,000㎡以下の場合は可能
第2種住居地域 不可 建築可能
準住居地域 建築可能 建築可能
田園住居尾地域 不可  農産物や農業資材の貯蔵が目的の場合のみ可能
商業地域 建築可能 建築可能
近隣商業地域 建築可能 建築可能
工業地域 建築可能 建築可能
工業専用地域 建築可能 建築可能
準工業地域 建築可能 建築可能

都市計画法はその地域の風土や産業など、多くの要因を考慮して制定されています。倉庫建築は上記の表に挙げた条件以外にも、用途制限を受ける事例があるため、建築前に入念な確認が必要です。

まとめ

倉庫の内装制限は内装工事だけでなく、火災被害を防ぐために建築制限とセットで規定されています。加えて用途制限から建築地域も限られる厳しい制度です。しかし、一般的に倉庫は大量の資材を保管しており、サイズの大きな建物が多く、火災発生時の被害は甚大なものとなります。使用者の注意を促しヒューマンエラーを防ぐよりも、建築構造で物理的に火災を防止し、延焼を止める仕組みはきわめて有効でしょう。




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