貸工場では火災保険に入るべき?火災保険の必要性と補償内容を解説

火災保険は、賃貸住宅の契約を行う際に契約するものと考えがちですが、貸工場や貸倉庫を契約する際にも加入義務があります。

火災保険は、工場を運営する上で起こりうる事故に対応し損害を補償する保険です。補償内容は多岐にわたり、オプションで製造している商品にも補償を付けられます。

この記事では、貸工場で火災保険に加入する必要性とリスクに対する補償、保険の種類について詳しく解説します。

貸工場で火災保険に入る必要性

火災保険で補償する物の内訳は、大まかに「建物」と「家財」の2つです。

建物はオーナーの資産なので、建物に対する火災保険にはオーナーが加入し、家財では工場を借りて生産活動を行う法人側が加入します。

ここでは、オーナー・法人双方の火災保険の必要性について解説します。

オーナー側にとっての必要性

建物自体はオーナーが所有する資産です。例えば隣の建物で火事が発生し、もらい火で自分の工場が焼けてしまったとしても「失火責任法」という法律で、火事を起こした人に直接被害額を請求できません。このようなケースのためにも、オーナーは火災保険に加入する必要があります。

工場を借りる側にとっての必要性

工場を借りる側は、工場の建物や設備に対して、火災保険に加入できません。そのため、火災によってパソコンや冷蔵庫などの家財が損害を受けた場合、借りる側が損害を負います。しかし、失火責任法により、借りる側が火元で火災を起こしたとしても、必ずしも借りる側に損害賠償の義務が生じるわけではありません。

ただし、賃貸契約では、借りる側は原状回復義務を負います。そのため、借りる側が火災保険に加入していれば、原状回復にかかる費用を補償してもらえます。つまり、借りる側が火災保険に加入する目的は、家財を守るためだけではなく、賃貸契約に基づいた原状回復義務を果たすためでもあるのです。

火災保険で補償してくれる事例

火災保険は火災のみではなく、さまざまな事故に対して補償がつきます。ここでは、6つの事故リスクに対し、どのように補償が行われるかを解説します。

火災のリスク

火災保険の対象である建物・家財が全焼または損壊した場合、契約時に設定した保険金の全額が支払われます。

ただし、ここで支払われる金額は「保険金額」の全額である点に注意が必要です。保険料を抑えるために保険金額を建物評価額よりも低く設定する「一部保険」にしていた場合、一部保険の保険全額しか支払われません。

ほかにも、故意や重大な過失がある人災の場合、保険金が支払われません。過失による火災では、個別の事情を聴き取り判断されますが、予想・予防できるものとみなされたときには保険金が支払われない可能性があります。

地震・台風など自然災害のリスク

自然災害による被害でも補償を受けられます。自然災害では台風被害が年々増えており、台風被害に対してかけられる火災保険の需要が増えています。台風被害では「風災」「水災」「落雷」の3つが補償対象です。

災害の種類 保証がかけられる範囲
瞬間最大風速20m/sの突風、竜巻、暴風などの被害
豪雨、暴風雨による洪水、高潮、土砂崩れなどによる被害
落雷による被害

地震被害の場合は、別途地震保険に加入しておく必要があります。なお、地震保険は火災保険とセットで加入する保険で、地震保険単独では加入できない点に注意しましょう。

爆発のリスク

火災保険における爆発とは「気体や蒸気の急激な膨張による破壊現象」です。

以下は、火災保険で保証できる爆発事故の例です。

  • ガス漏れに気づかず火をつけ爆発し、自宅または家財が損壊した
  • カセットコンロのボンベが爆発し、自宅または家財が損壊した
  • 隣の建物がガス爆発を起こし、自宅または家財が損壊した

ただし、このような事例であっても故意・重大な過失がある場合は、補償を受けられない可能性があります。

盗難のリスク

火災保険が適用される盗難被害は「盗難によって保険の対象物である建物・家財が奪われた、または損壊、汚損された」によるものです。

例えば、空き巣が侵入する際に窓や鍵を壊された場合、窓にも鍵にも修理費用が発生します。これらは、火災保険で修理・修復が適用される対象です。

盗難が発生した場合「防犯対策費用特約」がセットで販売されている火災保険では、再発防止のためのセキュリティ装置にかかる費用に保険金が支払われます。

このようなオプションがついている火災保険も存在するため、盗難被害を予測できる際は加入を検討してみましょう。

集団の暴力や騒擾のリスク

火災保険における騒擾(そうじょう)とは「群衆や多数による集団行動で平穏が害される状態」です。

火災保険での騒擾では、これらの行為によって建物・家財に損害が生じた場合、保険金が支払われます。補償が受けられる事例を以下に紹介します。

  • デモ集団による投石や暴力行為で建物・家財が損害を受けた
  • グループ同士のけんかによる闘争行為によって建物・家財が損害を受けた
  • イベントやスポーツ観戦に来ていた客が暴れて建物・家財が損害を受けた

スタジアムやイベント会場が隣接している工場であれば、不測の事態が予想されるため、補償範囲に騒擾を組み込む火災保険に入っておくと良いでしょう。

ただし、騒擾における損害が補償対象であり、暴動による損害とみなされた場合では保険金が支払われないため、注意が必要です。

暴動は「群衆や多数による集団行動で全国や一部の地域において著しく平穏が害され、治安維持上、重大な事態」を指します。騒擾と比較すると暴動の方が規模や被害が大きく、火災保険の補償対象にならない点に気をつけましょう。

落下・飛来・衝突のリスク

火災保険の物体の落下・飛来・衝突とは、建物や家財が、建物の外部から飛んできた物体や落下した物体によって損害を受けた場合に補償されるリスクです。補償を受けるには、飛んできた、落ちてきた物体により補償対象が損壊したなどの被害が出ている必要があります。

補償の対象となる事例は、以下のとおりです。

  • 車が敷地内に突っ込んできて建物や家財を損壊した
  • 車の飛び石で工場のガラスが割れた
  • 石や野球ボールが投げ込まれ家財が損壊した
  • ヘリコプターの墜落により建物が損壊した
  • ビルから看板が落下し、屋根が損壊した

これらのような場合は、物体の落下・飛来・衝突と認められ、補償対象となります。ただし、強風で物が飛んできて建物や家財が破損した場合には、風災として処理されるため、補償内容に変化が生じます。また、契約者本人やその同居している家族が例のようなケースで被害を出した場合も、補償対象外になるので注意しましょう。

業種に合わせて適切な補償内容を

工場で取り扱っている商品や業種によっては、人にケガを負わせたり危険性を伴う商品により、ほかの商品に損害が出る事故が起こると予想されます。そのため、自社の業種と火災保険で賄われる補償内容のすり合わせを行う際は、注意深くチェックしましょう。

ここでは、上述のような事故を起こしてしまった場合に有効な補償内容を3つ解説します。

施設賠償責任保険

施設賠償責任保険とは、契約者が所持する施設や工場で、他者の身体や財物に損害を与えて施設賠償責任保険は、工場や施設の所有者が、その施設の不具合や管理不行き届きにより、他人の身体や財物に損害を与えてしまった場合に、損害を補償する保険です。

例えば、工場で火災が発生して従業員がケガをした・工場のガラスが割れて通行人がケガをした、といった場合が対象となります。

貸主が加入する保険であり、賃借人は加入する必要はありません。

生産物賠償責任特約

PL保険は、製造した商品やサービスによって他人にケガをさせたり、財物を壊したりした場合に、その損害を補償する保険です。

例えば、食品工場で製造した食品によって食中毒が発生した・自動車メーカーの製造不良によって車が故障して事故を起こした、といった場合が対象となります。

食品や機械などの製造・販売事業を営む事業者が加入する保険です。

休業損失補償特約

休業損失補償特約は、工場での事故が原因で営業ができなくなってしまった場合に、その損失を補償する特約です。工場で火災が発生して工場が全焼した・工場の設備が故障して生産ができなくなった、といった場合に適用されます。

企業総合補償保険に付随して加入することが多い特約です。

工場の火災保険には金額相場がない

貸し工場や貸し倉庫の保険料には、決まった相場がありません。これは、契約者の事業規模によって、保管する荷物の量や種類、保管期間などが異なるためです。また火災保険は保険会社によって、保険料を自由に設定できるため、相場を出すことが難しいという理由もあります。

そのため保険料を比較する際は、複数の保険会社から見積もりを取り、内容や料金をよく検討することが大切です。同じ事業規模の工場でも、保険会社によって料金に差が出ることがあるため、比較なしに契約することは避けましょう。

まとめ

この記事では、貸し工場で契約する火災保険とその補償内容を解説しました。

貸し工場の火災保険を契約するときは補償内容をよく読み、どこまでが貸主の保険料でカバーするのか、どこからが借主の保険料の範囲なのかを見極めることが重要です。

また、立地や扱う事業によってオプションが適用され、損害が出たときに補償してくれる場合もあります。

人が集まる機会が多い地域では、騒擾(そうじょう)に対する補償ができる火災保険を検討し、損害の可能性をできるだけシミュレーションしましょう。

自社に合ったベストな火災保険選びに、この記事を参考にしていただけると幸いです。




関連記事

倉庫にカビができる原因は?対策方法を知って倉庫を清潔にしよう
倉庫業法違反をするとどうなる?違反となる内容や罰則について解説