他人の荷物を保管する「営業倉庫」を始めるためは、事前に登録が必要です。しかし、倉庫業を始めたいと思っても、どこに何を提出すればよいのかわからない人も多いでしょう。実際に営業倉庫を開業するには、さまざまな書類の手続きが必要です。
この記事では、営業倉庫を開業するために必要な手続きの流れや必須条件、営業倉庫の分類について詳しく解説します。
倉庫業として登録する際に必要な書類
倉庫業の登録を行う場合、地方運輸局または運輸支局、倉庫面積によっては国土交通省への届出が必要です。登録に必要な書類は多数あり、必要事項を記載して運輸局などに提出しなければいけません。
ここではポピュラーな「1類倉庫」について、必要な書類を解説します。
倉庫業登録申請書
まず必要な倉庫業登録申請書には以下の項目を記載します。
- 申請者の氏名、住所
- 営業所の名称、所在地および連絡先
- 資本金、出資の総額
- 倉庫の所在地、種類および保管する物品の種類
- 倉庫の施設、設備
- 営業開始予定日
倉庫明細書
倉庫の規模や所在地、構造の詳細を記載する書類です。必ず一棟ごとに作成し、トランクルームなどの付属設備の記載もこの書類に記入します。倉庫明細書の記載内容は後で解説する図面書類と合致していなければなりません。
土地・建物登記簿謄本および賃貸借契約書
土地・倉庫の不動産所有者の住所氏名、所在や大きさ、構造や地目などが記載されている登記簿謄本は原本が必要です。また、倉庫や土地が賃貸不動産である場合は賃貸借契約書が必要です。
建築確認済証・完了検査済証
倉庫完成には、建築基準法にのっとった「建築確認」と「完了検査」を行い、それぞれクリアしなければいけません。これらのことを証明するのが、建築確認済証と完了検査済証です。
建築確認済証と完了検査済証はセットになっているので、どちらかが欠けるということはありません。また、こちら2つの書類は写しの提出で大丈夫です。
その他図面以外の書類
倉庫の詳細がよりわかるように、以下の書類を準備してまとめます。
- 警備契約書の写しや警備状況説明書など、警備状況に関する書類
- 床、壁の構造計算書
- 平均熱貫流率の計算書
- 照明装置の位置図、仕様書など
図面関係の書類
倉庫を多面的に描き出した各種図面が必要になります。これらの図面関係の書類には、各部材質の詳細や消火器といった防災設備を明記します。
- 平面図
- 立体図
- 断面図
- 矩計図
建具表
建具の材質、寸法、防犯防鼠防水などが描かれた仕様書です。建具の位置などを記します。
法人登記関係・戸籍抄本など
会社概要を示した書類です。会社の形式に合わせ、添付する書類が以下のように変わります。
- 既存法人:商業登記簿謄本
- 設立中の法人:設立趣意書および定款
- 株式会社:発行株式数、株式総数、1株の発行価額、無額面株式発行の場合、発行価額中資本に組み入れない額、各発起人の引受株式の種類と数、その払込年月日、募集株式の種類、数、引受状況、見込
- 有限会社:出資の履行時期、その他出資の状況、見込
- 個人:戸籍謄本、資産調書
倉庫寄託約款
倉庫業者が利用者との間に行う、寄託契約に適用される契約内容を定めたものです。倉庫業者は倉庫寄託約款を定め、国土交通大臣に届け出なければならないとされています。
営業開始30日前までに届出が必要ですが、登録申請の際に添付しておけば、届出を省略できます。
宣誓書
取締役、監査役全員が欠格事由に該当しない旨の宣誓書を記載します。欠格事由とは役員が過去2年のうちに違反や法を犯しているかを示す項目です。欠格事由に該当した場合、倉庫業登録はできません。
倉庫管理主任者関係書類
倉庫の管理主任者を明記した書類です。倉庫管理主任者になる条件は以下のいずれかに該当する人材です。
- 2年以上の指導監督的実務経験がある者
- 3年以上の実務経験がある者
- 講習を修了した者
倉庫業法が適用される営業倉庫業の分類
倉庫業法が適用される営業倉庫には1類から3類までの倉庫、野積倉庫、貯蔵層倉庫、危険品倉庫、トランクルームなど9種類に分けられます。
保管する物品によって営業倉庫の種類も変わり、用途はそれぞれ該当するものにしか使用できません。事前に何の保管物品が該当する倉庫なのかを確認しておきましょう。ここでは、9種類の倉庫について詳しく解説します。
普通倉庫
普通倉庫は農業や鉱業、製造業に使用する製品や原料を保管する倉庫です。農作物から食品、繊維や紙、金属や原油などの幅広い物品を保管でき、さらに家財や美術品などの個人の財産にも対応しています。なお、普通倉庫は以下の8種に分類されています。
1類倉庫
建屋型の倉庫です。普通倉庫の多くがこの種類に該当します。建築基準や防犯防災設備が最も高い水準の倉庫で、幅広く物品を保管できます。
例:日用品・紙・繊維・パルプ・電気機械など
2類倉庫
1類倉庫の設備要件から耐火性能を除いた倉庫です。
例:でんぷん、塩、肥料、セメントなど
3類倉庫
2類倉庫よりもさらに要件が緩和された倉庫です。湿気や気温変化などの影響を受けにくいものが保管できます。
例:ガラス、鉄材、陶器など
野積倉庫
倉庫といっても建物ではなく、塀や柵に囲まれた区画を指します。保管できるものは、雨風にさらされても影響のないものに限定されます。
例:製材、鉱物、車両など
貯蔵槽倉庫
袋に入っていない麦やトウモロコシなどを保管する倉庫です。いわゆるサイロと呼ばれる建物を指します。
例:小麦、大麦、トウモロコシ、糖蜜など
危険品倉庫
消防法で定められた危険物を大量に保管する倉庫です。一時的な保管であっても必ず消防法で定められた基準を満たさなければいけません。
該当する品目:酸化性固体、可燃性固体、自然発火物質および禁水性物質、引火性液体、自己反応性物質、酸化性液体
冷蔵倉庫
10℃以下の低温度環境が必要な物品を保管できる倉庫です。温度管理に必要なドッグシェルターやエアコン、専用の扉など普通倉庫には取り付けない設備が整っています。
例:海産物、畜産物、農産品、冷凍食品等の食品
水面倉庫
原木などの第5類物品を保管できる水上の倉庫です。原木は陸上の倉庫で保管すると、乾燥で亀裂が入り品質が著しく低下してしまうおそれがあるため、品質を保つために水上で保管する必要があります。
周囲を築堤で囲み防護すること、流出防止措置を講ずること、防犯のため周囲に照明装置を設置することが水面倉庫を運営する条件です。
トランクルーム
トランクルームは、個人の家財や書籍などの財産を一時的に保管できる倉庫です。
例:家財、家具、美術品、楽器、書籍など
倉庫業登録の基準と通過のポイント
倉庫業を登録するには、多数の書類を作成するだけでなく、さまざまな条件が存在するため、営業を開始するまでのハードルが高い業種です。
倉庫業法という法律で厳格な審査のもと成り立っているため、この法律に違反していないかが営業を始められるか否かのポイントになります。
ここからは、倉庫業法によって取り決められている3つの基準と、立地における注意点について紹介します。
申請者が欠格事由に該当しない
営業倉庫では、申請者もしくは社内の役員が以下の3つのうち、いずれかの欠格事由に該当してしまった場合、倉庫業の登録ができません。
- 申請者が1年以上の懲役、禁固刑となってから執行が完了した日から2年を過ぎていない刑罰に関する欠格事由がある
- 申請者が倉庫業法違反をして、登録の取り消しをされてから2年が経過していない
- 申請者が法人の場合、取締役などの役員がこれらに当てはまる
役員の過去に何らかの問題が発覚したときは、倉庫業の登録を受けられないため、人員配置の際には、以上の3つの欠格事由をしっかりと確認しましょう。
倉庫が一定の施設設備基準を満たしている
営業に使用する倉庫が設備基準を満たしていない場合は倉庫業の登録ができません。不動産で倉庫を探す場合や新しく倉庫を建設する場合、設備基準に沿った物件である必要があります。
設備基準は倉庫の種類によって求められる基準が違うため、それぞれの倉庫に対応した基準をよく確認しておくことが重要なポイントです。
以下の表に1類倉庫に設定されている基準の一部を例として紹介します。
施設設備基準 | 説明 | |
1 | 使用権原 | 倉庫業に使用する倉庫およびその敷地の使用権限を有している |
2 | 関係法令適合性 | 建築基準法、その他の法令の規定に適合している |
3 | 土地定着性 | 倉庫が土地に定着し、かつ屋根および周囲に壁を有する工作物である |
4 | 外壁、床の郷土 | 外壁、床が国土交通大臣の定める基準に適合している |
この例は一部ですが、そのほかにも複数の設備基準が設けられています。基準のすべては国土交通省にてPDF形式で配布されているので、そちらを参考にしましょう。
国土交通省サイト:https://www.mlit.go.jp/common/001386645.pdf
倉庫管理主任者を選任する
倉庫業を営む場合、倉庫1つにつき1人の倉庫管理主任者を選び、国土交通省令が定める倉庫管理業務を行う義務があります。
上述のとおり、倉庫業は生活のインフラとして公共性が高いとされる事業であるため、適切に運営されるためにこのような既定が設けられています。
倉庫管理主任者に選定できるのは、以下に紹介する3つのうち、いずれかの条件に当てはまる人材です。
- 2年以上の指導監督的実務経験がある者
- 3年以上の実務経験がある者
- 講習を修了した者
複数の倉庫を所有する場合でも以下の例外規定があり、1人の倉庫管理主任者で良いとされる場合もあります。
- 同じ敷地内にある複数の倉庫、または同じ機能に使用する複数の倉庫
- 直接管理している都道府県の複数ある倉庫で、有効面積が国土交通省の定める値(1㎡)であるもの
倉庫の立地にも注意が必要
倉庫業の登録にあたり、注意しなければいけないのが用途地域です。用途地域とは、目的の異なる建築物が混在するのを防ぎ、地域ごとに立地規則や用途規制が敷かれている地域のことです。
倉庫業が可能な地域は、以下の6つの地域に限定されています。
- 準住居地域
- 商業地域
- 近隣商業地域
- 準工業地域
- 工業地域
- 工業専用地域
倉庫として使用する賃貸や建築の前には、これらの用途地域に当てはまるかを確認する必要があります。
倉庫業登録までの流れ
事前準備した書類をどこに、どのように提出して営業開始できるのでしょうか。ここからは、実際に行われる倉庫の申請・登録から営業開始までの行程を解説します。
事前準備
この段階では、使用する物件が倉庫業登録の条件を完全にクリアしているかを確認しましょう。要件をクリアしているか確認しないまま手続きを進めてしまうと、使用できない倉庫と不動産契約を結んでしまい、改修や新しく建設する必要が生じる可能性があります。
その場合、大きな損失が出てしまったり、登録申請の手間が増えたりするため、最初の段階で物件が条件をクリアしているかの確認を行いましょう。
登録申請および登録
事前準備が終わったら、登録申請に必要な書類を作成をします。必要書類は膨大な量なので、確認し、記入漏れがないように書類を作成しましょう。
登録審査
必要書類の記入が終わったら、運輸支局または地方運輸局へ書類を提出しましょう。面積が10㎡を超える場合は、国土交通省への提出も必要です。
提出が完了後、審査に入り必要に応じて運輸局により設備などへ指示が入る場合があります。
登録免許税の納付
審査が完了し、登録通知書を受領したら登録免許税を納付しなければいけません。納付額の計算は以下の計算式で求められます。
【登録免許税額=不動産の固定資産税評価額×税率】
この計算式で算出された登録免許税の納付が済み次第、納付書原本を運輸局へ提出します。
営業開始
保管料や倉庫料など、料金を決定し営業を開始します。倉庫料金を設定後、必ず料金設定届出書を30日以内に運輸局へ提出しましょう。
まとめ
この記事では、倉庫業登録に必要な書類や扱う倉庫の種類、申請までに必要な準備を解説しました。
倉庫業は公共インフラとして扱われ、申請には高いハードルが存在します。登録に必要な書類や知っておくべき法律が膨大なため、個人で行う場合は非常に手間と時間がかかります。
登録の際は、法律相談所などを介して手続きすると円滑に物事が進むためおすすめです。
ぜひこの記事を参考にしていただき、倉庫業登録に役立ててください。
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