アルコールやガソリン、灯油、塗料などの危険物は、使い方を間違えると事故につながる恐れがあります。特に大量の危険物を扱う場合は、火災リスクなどを伴うため、消防法で定められた規則を守らなければなりません。
この記事では、危険物を取り扱う際に必要な知識である「保安距離」と「保有空地」について解説します。
危険物とは
そもそも危険物とは爆発性物質・引火性物質・毒劇物など、危険性のある物質全般の意味です。消防法では、とくに火災を発生させやすく消火が困難な物質を性質ごとに分類し、危険物に指定しています。
危険物の種類
危険物には第1類から第6類まであり、一定量以上の貯蔵や使用は消防法で定められた施設でしか行えません。
種別 | 性質 | 概要 |
---|---|---|
第1類 | 酸化性固体 | 固体でそのもの自体は燃焼しない。ほかの物質を酸化させる性質をもつ。可燃物と混合したとき、激しい燃焼を引き起こす危険性を有するもの |
第2類 | 可燃性固体 | 火炎によって着火しやすく40℃未満で引火しやすい固体物質。燃焼が早く消火困難 |
第3類 | 自然発火性物質 および禁水性物質 |
空気にさらされると自然に発火する危険性をもつ。または水と接触して発火し可燃性ガスを発生するもの |
第4類 | 引火性液体 | 液体で、引火性を有するもの |
第5類 | 自己反応性物質 | 比較的低い温度で多量の熱を発生させ、爆発的に反応がすすむ特性をもつ |
第6類 | 酸化性液体 | 液体で、そのものは燃焼しない。混在するほかの可燃物の燃焼促進する性質をもつ |
危険物を取り扱う施設
危険物を一定量以上保管するには、消防法で定められた危険物倉庫の許可が必要です。危険物を取り扱う施設は用途別に以下の3種類です。
- 危険物製造所
- 危険物貯蔵所
- 危険物取扱所
製造所は、危険物を製造する目的で建てられた施設です。常時一定数以上の危険物を使用するため、建物構造や設備、配管などに多くの建設基準があります。
貯蔵所とは、一定量以上の危険物を保管する施設です。主に屋外や屋内貯蔵所、屋内外のタンク貯蔵所、地下タンクや簡易タンク貯蔵所が該当します。街中で見かけるタンクローリーも貯蔵所の一つです。タンクローリーのタンクの容量は、3万リットルまでと定められており、2千リットルを超える場合は、防波板を設置する必要があります。
取扱所は、製造以外の目的で危険物を取り扱う施設です。身近なものとしてガソリンスタンドやボイラー室が該当します。販売取扱所や移送取扱所も対象です。
危険物の標識
危険物を取り扱う場合は、規定された形式の標識や掲示板の掲示が義務付けられています。
一般的に、移動タンク貯蔵所を除く危険物取扱施設の標識は、大きさ(幅0.3m以上×長さ0.6m以上)、色(白色地に黒色文字)で名称を記載します。縦横はどちらでもかまいません。
一方、タンクローリーなど移動タンク貯蔵所の標識は、1辺0.3m以上0.4m以下の正方形で、黒色地に黄色文字で「危」を表示します。車両前後の見やすいところに掲示しましょう。
危険物の掲示板
掲示板は「危険物の内容」と「注意事項」を記載する2種類です。
取り扱い危険物などを表示する掲示板では、大きさを幅0.3m以上×長さ0.6m以上、白色地に黒色文字で以下の内容を記載しましょう。
- 危険物の類別
- 危険物の品名
- 最大数量
- 指定数量の倍数
- 危険物保安監督者の氏名または職名
注意事項の掲示板は以下の4種類があります。
- 禁水
- 火気注意
- 火気厳禁
- 給油中エンジン停止
対象は、 第1類危険物のうちアルカリ金属の過酸化物、第3類危険物のうち禁水性物品、ルキルリチウム、アルキルアルミニウムです。大きさは幅0.3m以上×長さ0.6m以上、青色地に白色文字で「禁水」と表示します。
対象は、第2類危険物のうち引火性固体以外です。大きさは幅0.3m以上×長さ0.6m以上、赤色地に白色文字で「火気注意」と表示します。
対象は、第2類危険物の引火性固体、第3類危険物の自然発火性物品・アルキルアルミニウム・黄リン・アルキルリチウム、第4類危険物、第5類危険物です。大きさは幅0.3m以上×長さ0.6m以上、赤色地に白色文字で「火気厳禁」と表示します。
給油取扱所では「給油中エンジン停止」看板を見やすい所に設置しなければなりません。大きさは幅0.6m以上×長さ0.3m以上で、黄赤色地に黒色文字で表示します。
保安距離と保有空地
危険物を取り扱う施設は、火災時に付近への延焼を防ぐために、一定の距離と空地を確保しなければなりません。この消防法に定められている距離が「保安距離」であり、確保する面積が「保有空地」です。
保安距離とは
危険物を取り扱う施設は、災害時に付近の建物や人々に被害を及ぼさないように、保安距離を保つように義務付けられています。以下の危険物取扱施設が対象です。
- 製造所
- 屋内貯蔵所
- 屋外貯蔵所
- 屋外タンク貯蔵所
- 一般取扱
保安対象物との保安距離
保安対象物とは「消防法・危険物の規制に関する政令第九条」で規定された設備や施設です。保安対象物ごとに危険物取扱施設を遠ざける保安距離は異なります。また施設によっては条件により対象外になる場合があります。
7,000V~35,000V以下の特別高圧架空電線*¹ | 水平距離3m以上 |
35,000V超の特別高圧架空電線*¹ | 水平距離5m以上 |
敷地外の住居*² | 10m以上 |
多数の人を収容する施設(例:学校、病院、劇場、公会堂)*³ | 30m以上 |
重要文化財*⁴ | 50m以上 |
高圧ガス施設 | 20m以上 |
*¹地中に埋設された高圧電線は対象外
*²製造所と同一の敷地内にある住居は対象外
*³多数の人を収容する施設は、規則第11条に規定される
- 幼稚園、小学校、中学校、高等学校などが該当し、大学や予備校は含まない
- 病院
- 劇場、映画館、演芸場などの施設で、300人以上を収容可能
- 児童福祉施設、障害者支援施設、老人福祉施設などの施設で、20人以上を収容可能
- 百貨店は、多数の人を収容する施設の対象外
*⁴重要文化財を保管している倉庫は対象外
保有空地とは
危険物を保管している建物は保安距離だけではなく、延焼防止や消火活動のための保有空地を確保しなければなりません。以下の施設では保有空地が必要です。
- 製造所
- 屋内貯蔵所
- 屋外貯蔵所
- 屋外タンク貯蔵所
- 一般取扱所
- 屋外に設置する簡易タンク貯蔵所
- 地上に設ける移送取扱所
保有空地は火災の発生時に、周囲へ延焼を防ぎ、スムーズに消火活動を行うための空間です。非常時の作業エリアなので普段から空地にしておかねばならず、駐車場に利用するといった土地活用はできません。
危険物の指定数量
危険物は性質により、法律規制の基準値となる「指定数量」が定められています。第4類の危険物だけは指定数量が、体積単位のリットルである点に注意しましょう。
種別 | 品名・性質 | 指定数量 | |
---|---|---|---|
第1類 | 第一種酸化性固体 | 50kg | |
第二種酸化性固体 | 300kg | ||
第三種酸化性固体 | 1,000kg | ||
第2類 | 硫化りん、赤りん、硫黄、第一種可燃性固体 | 100kg | |
鉄粉、第二種可燃性固体 | 500kg | ||
引火性固体 | 1,000kg | ||
第3類 | カリウム、ナトリウム、アルキルアルミニウム、 アルキルリチウム、第一種自然発火性物質及び禁水性物質 |
10kg | |
黄りん | 20kg | ||
第二種自然発火性物質及び禁水性物質 | 50kg | ||
第三種自然発火性物質及び禁水性物質 | 300kg | ||
第4類 | 特殊引火物 | 50L | |
第一石油類 | 非水溶性液体 | 200L | |
水溶性液体 | 400L | ||
アルコール類 | 400L | ||
第二石油類 | 非水溶性液体 | 1,000L | |
水溶性液体 | 2,000L | ||
第三石油類 | 非水溶性液体 | 2,000L | |
水溶性液体 | 4,000L | ||
第四石油類 | 6,000L | ||
動植物物油類 | 10,000L | ||
第5類 | 第一種自己反応性物質 | 10kg | |
第二種自己反応性物質 | 100kg | ||
第6類 | 過塩素酸、過酸化水素、硝酸 | 300kg |
保有空地の幅
保有空地が必要な施設は、周辺に規定された幅以上の空地を設けなくてはいけません。保有空地の幅は「指定数量の倍数」という数値から算出されます。施設内で取り扱う危険物の量を、前項で解説した指定数量で割った数が、指定数量の倍数です。
- 1つの施設で1種類の危険物を取り扱う場合
危険物の数量÷指定数量=指定数量の倍数 - 1つの施設で2種類以上の危険物を取り扱う場合
(危険物Aの数量÷指定数量)+(危険物Bの数量÷指定数量)=指定数量の倍数
条件 | 幅 | ||
---|---|---|---|
製造所 一般取扱所 |
指定数量の倍数10以下 | 3m | |
指定数量の倍数10超 | 5m | ||
屋内貯蔵所 | 指定数量の倍数5以下 | 壁、柱、床が耐火構造 | 規定無し |
それ以外 | 0.5m | 指定数量の倍数5超10以下 | 壁、柱、床が耐火構造 | 1m |
それ以外 | 1.5m | 指定数量の倍数10超20以下 | 壁、柱、床が耐火構造 | 2m |
それ以外 | 3m | 指定数量の倍数20超50以下 | 壁、柱、床が耐火構造 | 3m |
それ以外 | 5m | 指定数量の倍数50超200以下 | 壁、柱、床が耐火構造 | 5m |
それ以外 | 10m | 指定数量の倍数200超 | 壁、柱、床が耐火構造 | 10m |
それ以外 | 15m | ||
屋外貯蔵所 | 指定数量の倍数10以下 | 3m | |
指定数量の倍数10超20以下 | 6m | ||
指定数量の倍数20超50以下 | 10m | ||
指定数量の倍数50超200以下 | 20m | ||
指定数量の倍数200超 | 30m | ||
屋外タンク貯蔵所 | 指定数量の倍数500以下 | 3m | |
指定数量の倍数500超1,000以下 | 5m | ||
指定数量の倍数1,000超2,000以下 | 9m | ||
指定数量の倍数2,000超3,000以下 | 12m | ||
指定数量の倍数3,000超4,000以下 | 15m | ||
指定数量の倍数4,000超 | 15m以上* |
*タンク水平断面の最大直径、または高さのうち大きいものが15m以上
まとめ
この記事では、危険物の取り扱いに必要な保安距離や保有空地について解説しました。危険物は現代の化学工業にかかせないものですが、取り扱いを間違えると大事故につながるリスクがあります。危険物を使用したり貯蔵したりする場合は、より注意を払い、規則に従って安全に取り扱いましょう。
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